#2 大倉源次郎さん(小鼓方大倉流十六世宗家)

リレーエッセイ

「世界の視点で」

地球

WEB版『能楽タイムズ』!!誕生おめでとうございます。

1957年生まれの小生ですが、大学生の頃に始まったワープロから、電話回線を使った文字情報だけのモデム通信へ、更にインターネット革命とも言えるWindows95の登場より今年で20年。デジタル化の進歩は日々凄まじいものがあると感じています。
そして、「ついに、あの『能楽タイムズ』が……!」と思われるのは、きっと小生だけではないでしょう。

小生は、初めて海外公演に出た20歳の時から38年間、これ迄に訪れた国は25ヶ国、30程のツアー、45以上の公演に参加させて頂いています。その中で、いつの頃からか海外で慣例にしている事が有ります。それはホテルなどに設置してあるインターネットを使って「Noh」をWeb検索する事なのですが……。

Noh 検索では、室町時代の能面として夜店で売っているようなセルロイド製のお面の画像が掲載されていたり、著作権が切れている事を知ってか知らずか、明治大正頃のものであろう白黒の演能写真の画像がアップされていたりします。恥ずかしながら文章に関しては全く読めないので何とも言えませんが、画像検索の結果からも推して知るべしかと思います。英語圏ならばまだマシと言いたいところですが、公演情報に至ってはどの国でも本当に限られています。
つまり現状では、折角海外から日本の文化に興味を持って来日して頂いても、能楽堂に自主的にお越し頂けるのは、めったにない〈幸運〉と言わざるを得ないということです。

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『能楽タイムズ』のWebサイト開設は2020年の東京オリンピックを見越したものと思われます。それと同時に、是非とも日本に興味を持った海外のあらゆる言語の人が正確な情報を得る事ができ、更にはチケットを予約、購入、そして安心して能楽堂に足を運べるような環境作りの第一歩として頂きたいものです。更に言えば、能楽堂に足を運んだからには良い印象で帰って頂きたい。大前提として、良い舞台に出会っていただく事が最も大切で、それに恥ない舞台を一つでも増やして行く事が一方での我々の責務です。

小生は、日本人の心を育てた文化の根っこは能楽に有るとさえ思っています。なぜならば能楽は、世界の舞台芸術で類例を見ない歴史を有し、そのレパートリーの広さは原始宗教の面影を残す「翁」から始まる〈神、男、女、狂、鬼〉と幅広くあり、修験道の山伏や各宗派の脇僧たちは現世と霊界を隔てずに語りかけ、人の過去・現在を知り、未来に生きる力を与えてくれているのです。これが能と狂言という二つの視座から普遍的な〈世界〉を映し出す〈能楽〉の最大の魅力であり、脈々と続く日本人の世界観の原型だと考えるからです。
宗教にも寛容で「和をもって貴し」とされる日本に来れば、あらゆる国の人が仲良く出来るコンセプトを持った舞台芸術=〈能楽〉がこれからの世界に良い影響を与える事を信じてやみません。紙ひこうき

 

 

 

私達、囃子方に付いて書いてみましょう。

能楽では、シテ方以外のワキ方、囃子方、そして狂言方を合わせて〈三役〉という言い方が有ります。囃子方の集まりでは、東京には『東京能楽囃子科協議会』、京都には『同明会』、大阪には『調和会』が有り、名古屋、九州には三役が集まる『三役会』などが有ります。
各界とも、会の設立当初は生活が不安定な業界で互助会的な福利厚生を目的として集まったのが始まりと承っていますが、それから半世紀以上を経過した今では、三役が主催する公演も増えて来ています。それぞれがそれぞれの地域と立場で特色ある公演を始めた事により、シテ方が演能する会とは違った観客層を開拓すると同時に、公演の在り方を試行錯誤しつつ技芸向上の場が生まれています。行き過ぎた商業ベースは困りものですが、お客様に飽きられてはお終いの能楽界に於いて、ジャンル、職種、流儀を越えた切磋琢磨が起こることで能楽界の発展に繋がっていると考えています。

その、発信の場としてWEB『能楽タイムズ』。期待せずにはおられません。

そして最後にもう一つ、お願いがあります。
どなたか、「能楽用語ウイキペディア」のようなスレッドを英語で立てて下さい!英語から、様々な言語への翻訳エンジンは発達していますので、これは大変有効だと思います。どなたか始めてください。切にお願い致します!!!

大倉源次郎m(_ _)m

(イラスト/酒井慈子)



大倉源次郎氏

大倉流小鼓方16世宗家。重要無形文化財保持者(総合認定)。昭和32年生。15世故大倉長十郎の次男。大阪生、東京在住。昭和40年独鼓「鮎之段」で初舞台、同45年初能「岩船」同56年甲南大学文学部卒、同62年大阪文化祭奨励賞、平成4年大阪市咲くやこの花賞、平成6年度大阪文化祭賞(団体)、平成11年度大阪舞台芸術賞奨励賞(団体)受章 。流派を超えて21世紀の能を考える「能楽座」メンバー。日本国外問わず演能を行う傍ら、新作能、復曲能への参加も多数。(公社)能楽協会理事。

ホームページ:http://www.hanatudumi.com/


【公演案内】

東京能楽囃子科協議会 http://nohgaku-hayashika.com/
・12月9日(水)13時半/国立能楽堂
・平成28年3月16日(水)特別公演/国立能楽堂