#3 金剛龍謹さん(シテ方金剛流)

リレーエッセイ

「ロシアでの公演を終えて」

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WEB版能楽タイムズの開設、おめでとうございます。この度リレーエッセイの第3走者にご指名頂き、テーマは自由とのこと。何を書かせて頂こうかと考えまして、この夏に参加したロシア公演についてお話させていただきます。

今年2015年7月、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館にて樂焼の展覧会『樂─茶碗の中の宇宙展』があり、そのオープニングセレモニーで父(金剛永謹)の能「羽衣」が上演されました。この「樂展」では、重要文化財3点をはじめ、初代長次郎から当代吉左衛門氏、ご子息の篤人さんまでの作品が一同に展示され、閉会式は能公演もあわせて満員。現地の方々の関心の高さを感じました。

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さて、私がサンクトペテルブルクを訪れてまず感動したこと、それは街並の素晴らしさです。市中を移動中に眺めた景色、そして聖イサク大聖堂のらせん階段を登り、上から眺めた街の景観は美しいの一言!建物の高さや色合いに統一感があり、まるでひとつの芸術作品のようでした。

滞在中、エルミタージュ美術館の館長ピオトロフスキー氏と昼食をご一緒させていただく機会があり、私も同席しお話を伺っていると、氏は美術館の館長と同時に〈サンクトペテルブルクの景観を守る会〉の会長もされているとのこと。その活動は、街並にそぐわない建造物の建設計画を取り消すなど、かなり過激で反対派も多い……と笑いながら仰っていましたが、街を守るという強い覚悟を感じました。私の住むまち京都にも景観条例はありますが、通り一遍の条例を守ることより、住民の強い意志こそが大事なのだと改めて学ばせていただきました。

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また、ロシアと言えばバレエの本場。公演の合間の夜、マリインスキー劇場にバレエを観に参りました。舞台の芸術性の高さ、劇場の美しさに感激し、加えて驚いたのは客席の子どもの多さ。沢山の家族が子ども連れで劇場に足を運んでいる姿は、いかに文化が人々の生活に根付いているかを物語っていました。能楽界においても近年子どもの能鑑賞の企画が盛んであり、今後益々その流れが広まっていくことを願って止みません。

今回のロシア公演で私が感じましたことは、サンクトペテルブルク市民の皆様の自国文化への愛情の深さ、そして他国文化への関心の高さでした。改めて文化の持つ力の大きさ、そして国や言葉が違っても芸術には人をつなぐ力があることを実感しました。これからの時代は日本国内のみならず、世界中の人々へ情報発信するWEBの重要性が増していくでしょう。WEB版能楽タイムズが世界中の人々へ能楽をお知らせする懸け橋となることを祈念して、筆をおかせていただきます。

 

(イラスト/酒井慈子)



金剛龍謹氏

昭和63年、二十六世宗家金剛永謹の長男として京都に生まれる。幼少より、父金剛永謹、祖父二世金剛巌に師事。5歳で仕舞「猩々」にて初舞台。10歳で能「岩船」初シテを勤める。同志社大学文学部国文学科卒業。平成22年、スペイン・ポルトガル公演に参加。平成24年から、自身の演能会「龍門之会」主催。平成27年ロシア公演に参加。公益財団法人金剛能楽堂財団理事。

ホームページ:http://www.kongou-net.com/


【公演案内】

加賀宝生×京金剛〜夢の競演〜
・12月12日(土)14時/石川県立能楽堂
能「妻戸」シテ