世阿弥自筆本による「弱法師」 梅若玄祥氏が『至高の華』で

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9月22日(木・祝)19時から、国立能楽堂にて行われる『至高の華』で、梅若玄祥氏らが、世阿弥自筆本による「弱法師」を上演する。

能「弱法師」は、讒言によって追放され盲目となった俊徳丸が父親と再会する物語。観世元雅によって書かれた後、長い間上演が途絶えていたのを江戸時代に復曲したものが現行曲とされているが、成立当初は演出がかなり異なっていたといわれている。今回の公演では世阿弥自身が書き記したとされる世阿弥本に拠り、天王寺の僧の登場や俊徳丸が妻を伴って出るなど、当時の演出に沿って上演される。

上演に先立ち、シテ俊徳丸を演じる梅若玄祥氏が同作についての会見を行った。

玄祥氏が世阿弥自筆本〈弱法師〉を初めて演じた際、演出は劇作家・評論家の堂本正樹氏がつとめた。「堂本さんは、常に能は演劇であるという視点から演出をされていて、それを能として、どう具体化していくかという点にとても悩んだことを覚えています。たとえば、この能の〈クルイ〉の部分に俊徳丸は目が不自由ではあるのだけど〝見えた〟というように錯覚してしまう箇所があるのです。まるで目が見えているかのように舞って、ふとした瞬間に人とぶつかって現実に引き戻される……堂本さんの演出だとそこで俊徳丸は杖を放すんですが、この杖を放すという演出にかなり躊躇いたしました。型がしっかりある能は、逆にその伝承から出るということが勇気もいるし難しい。かといって、伝承だけでやっていけば良いかというとそれでは駄目。堂本さんの演出を通して、そのバランスを調節しながらひとつひとつの作品を再度つくりあげていく必要性を感じました。」

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笑顔を見せる玄祥氏

現行曲の〈弱法師〉は非常に能的である一方、世阿弥自筆本のものは現代的・演劇的でわかりやすくなっている。そのため、能を知らない人でも十分に楽しめるのではと玄祥氏は話す。「能の現在物というのは、その背景を観客が承知の上で話が展開していくというところがあります。たとえば〈安宅〉などでは観客にも一定の知識があるでしょうが、〈弱法師〉あたりになると知らない人も多い。すると、物語が見えて来ないんですね。ただその点、今回の世阿弥自筆本では俊徳丸のまわりの人間関係を描くことにより、物語を理解しやすくなっているように思います」。

ただ、削ることによって物語を際だたせる能という芸能においては、普段ないものを登場させるというところに非常な難しさがあるという。劇中では、俊徳丸の人間性をどう出せるかがポイントになるとした上で「ツレも登場することで謡も分散されるので、逆に役者の技量が問われる。だからこそ、俊徳丸の父は(野村)万作先生にお願い致しました。これだけの存在感がないと、ひとつの作品として成り立たないと思っています」。
一方で、ツレを谷本健吾氏にお願いしたのは「彼のキャラクターが連れ添う役にとても合っている気がしたから。わたしも若い頃に何度となくツレを演ってきましたが、ツレという役はある意味ではシテよりも難しいのです。目立つのではなく、かといって邪魔してもいけない。今回はわりとすぐ彼に頼もうと決めました」と話していた。

インタビューの中で、今後は「我々の伝承をつくっていかないといけない」と何度となく口にしていた玄祥氏。それは、今あるものだけに頼っているのではいけないというだけでなく「古典芸能は伝承に頼っていれば成り立ってしまう部分がある、というのをきちんと理解しておかなければ」「先人たちの思いや気持ちを受け継いで、それを踏まえた上での自身の伝承をつくっていく。出来るかどうかは別としても、思いを残していかないと、という気持ちはあります」。また〈弱法師〉についていえば「一度、この形で完成させなくてはと考えている。古い形というよりは、もうひとつの作品としてきちんと確立させていきたい」と話していた。

今後は、というと「堂本さんがたと随分沢山の現行曲の見直しをしていますが、それをもう一度掘り起こしてやりたいという気持ちを実は持っています。今回はその手始めになるのかもしれません」のだそう。同作のみどころについては「人間いつ何がおこるかわからないというのは、俊徳丸だけでなく我々にもある」としたうえで、「考えれば〈弱法師〉はハッピーエンド。子と親の想い、絆を取り戻せるか。作者である元雅と父・世阿弥との関係性がこの〈弱法師〉には描かれているともいえるのではないか」と語っていた。

当日のプログラムは、狂言「泣尼」僧・野村萬斎、施主・内藤連、尼・石田幸雄、能「世阿弥自筆本による〈弱法師〉」俊徳丸・梅若玄祥、俊徳丸の妻・谷本健吾、住僧・森常好、能力・高野和憲、高安左衛門・野村万作、囃子・松田弘之、大倉源次郎、亀井広忠、地頭・山崎正道ほか。

チケット料金は、正面席=10000円、脇正面席=8000円、中正面=6000円、学生席=3000円。申込み=梅若会☎03ー3363ー7748(不定休)、サンライズオンライン☎0570ー00ー3337(10時~18時)、http://sunrisetokyo.com/ ほか、チケットぴあ、イープラス、国立能楽堂(窓口販売のみ)。

主催・問合せ=ダンスウエスト☎06ー6447ー1950(平日/11時~18時)へ。