東京国立博物館(東京都台東区)で開催される前田育徳会創立百周年記念特別展「百万石!加賀前田家」との連動企画として、能楽公演『東博能2026』が2026年4月17日(金)から6月7日(日)まで同館で開催される。

『東博能』は加賀前田家と宝生流の結びつきを背景に、東京国立博物館と宝生会の協賛により実現した企画。本館内に公演のための特設能舞台を常設し、特別公演6回を含む全26回の能楽公演を3カ月にわたって開催する。会場では公演だけでなく、来場者が能面や装束の着用、謡・仕舞・囃子を体験できる能楽体験も、期間中に全20回行われる予定だ。


加賀前田家と宝生流
加賀前田家は江戸時代に加賀・越中・能登の三か国、百万石以上の規模を誇った大名家として知られ、歴代当主が金沢を本拠に独自の文化を育んだ。もともと祖の利家は豊富秀吉にならって金春流を贔屓にしていたが、五代・綱紀は徳川綱吉が宝生流九代家元・宝生友春を贔屓していたのにならい、友春に指南役を請う。
以降、加賀だけでなく大聖寺、富山の前田家は宝生流に傾倒し、十三代・斉泰の頃には「加賀宝生」は最盛期を迎えた。加賀の地に根を下ろした能楽文化は城中だけでなく町人たちにも支えられながら発展し、現在も群を抜いて高い地域性を持って息づいている。
一方、前田家は近代に東京へ本拠を移して侯爵となったあと、加賀前田家に伝来した品々の保全に努め、1926年に育徳財団(現・前田育徳会)を設立。その創立百周年を記念し、加賀前田家伝来の文化財の全貌を総覧する特別展が4月14日(火)から6月7日(日)まで東京国立博物館の平成館で開催されることとなった。能面は「翁 日光作 宝生大夫七十三友春(花押)」「老女 日氷作 重吉(花押)」といった14面が、ほか「翁狩衣 茶地蜀江文錦」など能装束が期間によって入れ替えながら展示される。






『東博能』の上演曲と使用面
こうした背景から、『東博能』では加賀前田家と宝生流の結びつきを意識した曲が上演される。初日4月17日(金)の特別公演「生きる国宝」における宝生流「来殿(らいでん)」は、もともと大宰府に左遷され憤志した菅原道真の激しい怨念を描いた能「雷電(らいでん)」が原曲。しかし前田家が道真を祖神としていることから、道真の霊が雷神となって暴れまわるところを、宝生流では天満天神としてめでたく舞い納める筋へと改作し「来殿」として演じるようになった曲となっている。

また、特別公演「生きる国宝」シリーズでは、宝生会所蔵の重要文化財の中でも流儀の名物面(本面)が実演に用いられる。能「来殿」では前シテに「中将(本面)」(桃山~江戸初期・十六~十七世紀)、後シテに「三日月(本面)」(桃山時代・十六世紀)を使用。
千秋楽となる6月7日(日)公演の能「船弁慶 後之出留之伝」では宝生流を代表する増女の名物面「節木増(ふしきぞう)」が掛けられる。室町時代の増阿弥作とされ、鼻の付け根には材となった木の節(ふし)がある。ここから樹脂がにじみ出てしみとなっていることから「節木増」と呼ばれ、写し面を作る際はこのしみも忠実に写すことで知られている。
重要文化財指定された本面が実演に使われるのは、宝生流の演能においても極めて限られており、演能空間で見ることができる特別な機会となっている。
博物館という開かれた場で能と狂言が一定期間継続して上演される貴重な3か月。特別展とあわせて足を運んでみてはいかがだろうか。



